507.夢

 

 カルーギンは眠りに落ちた。夢の中で、あた・かも彼は潅木のなかにすわりこんでいるようで、その潅木のそばを警官が通り過ぎていた。
 カルーギンは目を覚まして、口をカリカリ掻き、また眠りに落ちた。そして再び、夢をみた。あた・かも彼は潅木のそばを通り過ぎているようで、潅木のなかには警官が隠れてすわっていた。
 カルーギンは目を覚まし、枕をよだれで汚さぬよう、頭の下に新聞紙をひいた。そしてまた眠りに落ちたが、再び、あた・かも潅木のなかにすわりこみ、潅木のそばを警官が通り過ぎているような夢をみた。
 カルーギンは目を覚まし、新聞紙を替えて横になり、また眠りに落ちた。眠りに落ち、また夢をみた。あた・かも彼は潅木のそばを通り過ぎていて、潅木のなかには警官が隠れて座っているようであった。
 ここでカルーギンは目を覚まし、もう眠るまいと決めたが、その途端に眠りに落ちた。夢の中で、彼はあた・かも警官の前にすわっているようで、そばを潅木が通り過ぎてゆくのだ。
 カルーギンは叫び声を上げ、ベッドの上でのたうちまわったが、目を覚ますことはもう出来なかった。
 カルーギンは四日四晩ぶっ通しで眠り続け、五晩めに目を覚ましたときには、長靴を紐で足にくくりつけないとぬげてしまうほど、やせ衰えていた。カルーギンがいつも小麦パンを買うベーカリーでは、彼のことがわからず、ライ麦パンをよこした。アパート中を歩き回っていた衛生委員会は、カルーギンをみるなり、非衛生的でどこにも益をもたらさぬ人物であるとし、カルーギンをゴミと一緒に放り出すように賃貸住宅協同組合に命じた。
 カルーギンは二つに折りたたまれ、ゴミのように放り出された。

 

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